無賃乗車も可能 スイスの公共交通機関    だが、しかし‥‥。

スイスの鉄道の駅には改札口というものがない。ホームへの出入りは自由だし、そのまま列車に乗り込むことだってできる。

遠距離列車の場合は、発車してしばらくすると車掌が検札に回って来るので無賃乗車は難しいが、通勤列車のような近距離を走る電車、各州の市内を走る路面電車やバスなどであればタダ乗りも可能だ。成功率も高い。検札員が乗り込んでくる回数は決して多くないからだ。

例えば田舎に住む私が、チューリヒ市の中心街に出かける回数は週に1度くらいだが、検札係に出会った過去の回数を平均化すると、3カ月か4カ月に1度あるかないかってところじゃないかな。

うちの村の公共交通機関郵便馬車の時代から引き継がれてきた(と言っても現在は委託らしいが)郵便バスだけだ。今でもスイスの山奥の寒村へはこの郵便バスの運転手が郵便小包を運んで行ったりする。運転手にも受け取る村の局員の顔にも、爽やかな微笑みがこぼれる。スイスの田舎を旅していると、こういう前時代的な長閑な光景に出合って、ホッとさせられることがよくある。

さて、うちの村を走る郵便バスだが、乗車は後ろからでも前からでもOK。運転手から切符を購入する人は前から乗車した方が便利だけれど、乗車券は無視して後ろから乗り込み、そのまま座席につくのもその人の自由である。痛い目に遭うかも知れないというリスクさえ承知していれば。

とはいえ、市内を走る路面電車や市営バスならいざ知らず、うちの方の田舎路線では無賃乗車をやらかす乗客など殆どいない。少なくとも私の記憶にはない。私は殆ど毎日隣町まで食料の買い出しに出かけるのでこの郵便バスを利用することになるのだが、検札係に会う回数は年に2回くらいだ。(^^;

にもかかわらずタダ乗りをする人は殆どいない。これは多分、人口1000人足らずの小さな村という地域性が関係しているのではないかと思う。

それが‥‥である。

あの日、私はいつものように隣り町まで買い物に行くのに午後2時半過ぎのバスに乗った。一日のうちでも一番すいている時間帯だ。乗客は私も含めて、たったの4人‥‥、と思いきや、バスが発車したとたんに一番前に座っていた男性がスクッと立ち上がった。振り返って後方を見ると、もう一人の男性も立ち上がっている。

「グリュエッツィ、ミッタナン!」(スイスドイツ語で「みなさん、こんにちは!」の意味)。スイスの独語圏の公共交通機関でこの挨拶が耳に飛び込んできたら、99%の確率で切符の検札が始まると思って間違いない。検札係はいつも2人で乗り込んで来る。一人は前から、もう一人は後ろから。そう、挟み撃ちなのだ。もう逃げられない。(^^; 

私は、スイス国内の国鉄(連邦鉄道)私鉄を問わず公共交通機関の殆どすべてに通用する1年間有効の定期(GA)を持っているので、検札もいたって簡単だ。検札係が私のカードをピッとIT機器にあててチェックすると、それでおしまい。

ところが、後部座席の方の空気が何やらざわついている。振り向いてみると、乗客が検札係に突っかかっているらしい。南米出身風の若いお兄ちゃんだ。バスの雑音が大きいので彼がぶつぶつ言っている内容までは分からない。が、どうやら検札係にお仕事が入ったようだ。

このお兄ちゃんは村の住人ではなさそう。私には初めて見る顔だ。きっと友だちのアパートにでも遊びに来ていたのだろう。

冷たいようだけど、まっ、自業自得だね。

けど、同情の余地もあるにはある。この辺を走るバスの中で年に2回ほどしか乗り込んでこない検札係に遭遇するのだから、ツキがなかったと言えばなかった。

正規に切符を買っていれば、最寄りの鉄道駅までなら(円に換算して)150円もかからなかっただろうに、罰金は(今日の円換算で)約1万6千859円だ。

イタっ!!!

南米出身風のお兄ちゃんへ。

次に村にいらっしゃる時には、やっぱりタダ乗りはやめようね。

同じタダでも、タダしく乗った方が断然お得だよ。(^_-)-☆

写真は私の住む村の本通りを走って行く郵便バス。2017年11月中旬に撮影。